合唱組曲 筑後川
詩 丸山 豊 曲 團 伊玖磨
(撮影;野口喜好)
第一章 みなかみ
いまうまれたばかりの川
山の光は
小鳥のうぶ毛の匂。
若草と若葉のかさなりは
天へつづくみどりの階段。
阿蘇外輪の春。
溶岩の寝床で
いま生れたばかりの川
すがすがしい裸の愛が
頬をあからめて歌いだす。
素足でげんきよく走りだす。
さあ遠い旅行がはじまる。
けものの白い骨を
狩人の墓を洗い
森のくらさをおそれずに
滝の高さをおそれずに
さあ未知のくにぐにへの旅行がはじまる。
(写真は江川ダム;野口喜好撮影)
第二章 ダムにて
いそいそと瀬を走り
青葉をくぐり若葉をくぐり
もだえてみぎに左にうねり
愛の水かさがふくらんだところで
非情のダムにせきとめられる。
川よ
愛の川よ
もっと深さをもつように。
もっと重さをもつように。
もっと冷静であるように。
<男性>
不屈の決意をした青年です
いのちがけで愛するために。
見よ!水面に映したくれないの雲。
<女性>
あなたを信じます。
あなたの愛を
ごらん!魚たちの鰓呼吸のおだやかさ。
川は
大きな川は
かがやく活路をさがしだす。
自然に育てられた愛が
筑後平野の
百万の生活のなかへ
歓喜の声をあげて走ってゆく。
(合川橋上流'98.5;野口喜好撮影)
第三章 銀の魚
*
しずかにしずかに
楠の木かげを漕ぎだした
川の男の
たくましい胸板
あたらしい棹を入れる
川の女の
清らかなうなじ。
朝の川面に
投網がふくらむ。
さざなみが湧く。
さざなみがひろがる。
深い川の深い心を
いきのよい魚をとらえるのだ。
朝日にはねよ銀の魚
(久留米の筑後川花火大会;野口喜好撮影)
第四章 川の祭
祭よ
川を呼びおこせ
とっぷり暮れた大きな川へ
太鼓をたたけ。
太鼓をたたけ。
一千匹の河童よさわげ。
どどん どどん
どどん どどん
祭よ
川を呼びおこせ
一万匹の河童よさわげ。
十万匹の河童よさわげ。
どどん どどん
どどん どどん
祭よ
愛を呼びおこせ。
はげしい愛を呼びおこし
花火をあげよ。
花火をあげよ。
一万匹の河童をてらせ。
ぱぱん ぱぱん
ぱぱん ぱぱん
祭よ
愛を呼びおこせ。
十万匹の河童をてらせ。
百万匹の河童をてらせ。
ぱぱん ぱぱん
ぱぱん ぱぱん
筑後川最下流の新田大橋遠望