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76円台となった円高を示すボード=8月4日、東新橋・外為どっとコム(撮影・大里直也)(写真:フジサンケイビジネスアイ) |
円高の進行が日本経済に重くのしかかっている。フジサンケイビジネスアイがエコノミスト14人に実施したアンケートでは、ほぼ全員が戦後最高値の1ドル=76円25銭突破を必至とみており、過半数の8人が2011年の日本の国内総生産(GDP)成長率がマイナスになると予測した。円高は、欧米の財政懸念が続く限り反転する期待が薄く、震災の最悪期から緩やかな回復軌道に仱辘膜膜ⅳ肴毡窘U済の足を引っ張るとの見方が強まっている。
[表でチェック]エコノミストの円の高値、日本のGDP成長率予想 前回5月の調査では、マイナス成長を見込んでいたエコノミストは3人だけだったが、今回の調査では一気に5人も増えた。震災の影響で落ち込んだ景気の早期回復という見込みが後退したことで、日本経済は分岐点を迎えた格好だ。
ただ、「供給制約が解消する中で、生産はV字型で回復中。輸出主導の緩やかな景気回復を再開しつつある」(みずほ証券の上野泰也氏)というのが、エコノミスト14人のほぼ一致した見方。日本経済の本格回復の時期では6人が「すでに回復」と回答した。また、6人は12年中の回復を見込んだ。
回復に向かいつつあるなかでマイナス成長予測が増えたのは「円高が景気を下押しする懸念が高まっている」(浜銀総合研究所の小泉司氏)ことが背景にある。対ドルでの円相場は、8人のエコノミストが最高値を1ドル=75円と予測。5人はそれ以上の円高進行を予測した。
最も高い「72円」とした第一生命経済研究所の嶌峰義清氏は「米金融当局が追加の量的緩和を実施するまでは市場の混乱が続く」と指摘した。「73円」とした三菱総合研究所の森重彰浩氏は「欧米の長期財政再建に関する抜本策が実行されない限り、リスク回避先として円高圧力がかかりやすい局面が続く」との見解を示すなど、1ドル=80円を割り込む現在の水準が定着するとの見方は強い。
明治安田生命保険の小玉祐一氏は、米金融当局が金融緩和策をとり続ける姿勢を示したことで、世界的な通貨安競争が再発したとの認識を示し、日本政府・日銀が新たな対応を迫られるとの見通しを示した。
一方で、「足元の円高はファンダメンタルズ(基礎的諸条件)からはややかけ離れた動きで、一時的」(SMBC日興証券の牧野潤一氏)、「日本の弱い部分に目が向けられて徐々に円安が進む」(上野氏)といった理由から、7人のエコノミストが1ドル=84円以上の円安局面に進む可能性も指摘。「年末にかけては緩やかな円安が進む」(野村証券の木内登英氏)と足元の円高をしのぐげば、その後は企業業績に追い風が吹くという期待もある。
しかし、景気下押し懸念は円高ばかりではない。各エコノミストは、電力不足の長期化や政府による復興政策の遅れも高いハードルとみる。
■復興財源先送り 財政不安に懸念
BNPパリバ証券の河野龍太郎氏は、「もともと高齢化の進展で成長期待が低下する中で、電力不足の長期化は、潜在成長率が低下するおそれがある」と警鐘を鳴らす。
輪番操業の実施などで夏場の電力不足はクリアしつつあるものの、東北電力などでは発電施設の故障で供給懸念が再燃している。企業の投資マインドが大きく削がれる可能性は否定できない。
一方、震災からの復興需要の本格化が景気を押し上げる効果も期待されるが、政府の復興政策の評価については「非常に遅れている」「スピード感に欠ける」といった批判が相次いだ。特に、復興費用の財源問題が先送りされたことに対する懸念が広がっており「将来世代は復興によって受けるメリットよりも、その支払いによるデメリットの方がはるかに大きくなる懸念がある」(河野氏)と早期の財源確保の必要性を訴えている。復興財源問題を先送りしたままでは、欧米で顕在化した財政不安が日本にも飛び火することにもなりかねず、政府の迅速な対応を求めている。(石垣良幸)