人事制度だけでは解決できない中国人材マネジメント
(2007-02-03 11:28:23)
下一个
キャリア形成への意欲が強い中国人の就業行動
中国人が職場を選択する際の行動原理を、単なるジョブ・ホッピングとして捉えてはいけないこと、自社で働くことが社員の成長やキャリア形成に役立つと思ってもらえるようにアピールすることが重要であることを、前回述べた。
まずは、人材マネジメントの基本的なインフラとして、人事制度を整備する必要がある。キャリアの発展空間が見えるような等級制度、信賞必罰のメリハリがある評価・処遇制度、社員の成長を支援する人材育成制度などである。
実際、日系企業の中には人事制度がないに等しい企業が意外と多い。「人事制度がないに等しい」というのには様々なケースがある。一人ひとりの社員と採用時に個別に交渉して賃金を決めてきたため、賃金制度が体系化されていないケース、生産拠点として中国へ進出してきた頃の人事制度を開発・販売・管理等の機能組織にそのまま適用しているケース、各種事業の段階的な中国進出に合わせて人事制度も建て増ししてきたため、全体として不整合があるケース、などである。
また中国では、自己成長の機会が多いことに加えて、企業に社員を大切にしている姿勢を見出せることも、就業者が職場の良し悪しを判断する上で重要なポイントである。そこで、法定以外の福利厚生制度の拡充に力を入れる企業が見られるようになってきた。
このように人事制度はインフラとして必ず整備しなければならない。それでは人事制度を整備すれば人材マネジメントが上手く行くかというと、そうではない。実際、多少は中国固有の事情を考慮した「味付け」が必要ではあるものの、中国で絶大な効果を発揮する魔法の人事制度の仕掛けが存在するわけではない。制度の作り込みにばかり注力しても、人材マネジメントは望むようには機能しない。
重要なのは人事制度に魂を吹き込み、人事制度を円滑に機能させるような「ソフト」の充実である。「ソフト」の充実とは、第一に経営理念や事業ビジョンを提示すること、第二にコミュニケーションを円滑化・活発化させることである。
経営理念や事業ビジョンを提示し、それに基づいて人材マネジメント行うことは、決して一部の優良企業が出来ていればよいことではなく、中国で成功したい企業ならば必ず取り組むべき課題である。再三にわたって、就業者が「働くに足る職場である」と感じられることの大切さを述べてきたが、それは自己成長やキャリアの発展可能性の側面だけでなく、経営理念への共感という側面でも極めて重要である。実際、日系企業で働く中国人社員と話していると、「この会社の企業文化や沿革・歴史をもっと教えてほしい」という声を少なからず聞く。大型書店の人材マネジメント関連のコーナーに行けば、「企業文化」というタイトルの書籍がたくさん並んでいることからも、就業者に「企業の『人となり』」を理解してもらい、共感を得ることが、いかに重要かが分かる。
また、高度成長期とはいえ、変動の激しい経済・社会環境にあって、自分の働く職場が将来にわたって必ず存続するとは限らない。とりわけ外資系企業の場合は、中国から撤退する可能性も否定できない。社員に長く勤めてもらいたいならば、中国にしっかりと腰を据えて成長と安定経営を目指していくのだという事業ビジョンを示すことが、非常に重要なのである。
二点目のコミュニケーションの円滑化・活発化とは、主に経営者や管理職と一般社員との信頼関係づくりを指している。むろん、これは中国に限ったことではなく、どの国の企業でも重要である。とはいえ、中国の日系企業に限って考えれば、(現地化が叫ばれているものの)経営者や管理職を日本人出向者が占めているため、彼らの中国人社員に対するリーダーショップの質が問われてくる。
中国事業の重要度が高まると同時に、その難しさも明らかになるにつれ、日系企業には本社から役員クラスやエース級の人材が送り込まれるようになってきている。しばしば「優秀な人材はどこに行っても通用する」と言われる。確かにリーダーシップに関しても、会社の目指す姿や方向を示し、部下にきめ細かく心を配って、その意欲を引き出すといった行動は、万国共通であろう。
とはいえ、社会・文化的背景の異なる人間を相手にする以上、その考え方や価値観をできるだけ早く理解し、尊重することは欠かせない。例えば「頑張ってね」と励ましの言葉を部下に掛けたつもりでも、中国では「頑張らなきゃいけないということは、自分は能力がないということかしら」と否定的に受け止める傾向があると聞く。部下との距離を縮めようと飲みに誘っても、部下は仕事を早く切り上げてプライベートの時間に戻りたいのに断れなくてうんざりしている、などというエピソードも聞く。むろん中国人といっても多様なので、一概にステレオタイプ化して語るのは禁物だが、おおよその社会・文化的な傾向を心得ておくことは不可欠であろう。(執筆者:野村総合研究所・田浦里香)